【ホワイトペーパー】サクセッションを刷新する

CEOの離職率が過去20年間で最も高く、平均在職期間が7年未満の今、サクセッション・プランニングの仕組みづくりは将来に備える戦略的な手段である。

 

サクセッション・プランニングは単なる人事業務ではありません。経営リーダー層のスムーズな移行と、組織内の人材育成を確実なものとする重要な経営事案です。

人事部門のトップリーダーやタレントマネジャーを対象としたコーン・フェリーの最近の調査によると、ほとんどの企業が長期的な成功のためにサクセッションと人材計画が重要だと考えていることが分かりました。しかし、そこには問題があります。その取り組みに十分なリソースを費やしておらず、その結果、人材のレディネス(準備度合)と有効性が機能していないことです。驚くことに、90%もの組織がサクセッション・プランニングの重要性を認識しているにもかかわらず、これを財務的にコミットすることで支援しているのは37%に過ぎません。LinkedInの最近の調査でも、重要職務のために正式なサクセッション・プロセスを設けている企業はわずか35%であることが明らかになりました。

 

重要性に比して投資が不足

認識されている重要性と実際の投資との間の齟齬は、根本的な疑問を提起します:サクセッション・プランニングを重視しているのに、なぜ成功に必要なリソースを配分できないのか?

予算の制約や他の優先事項というのは当然あるでしょう。しかし、専門家は、戦略的優先事項とリソースや人材への投資を一致させることの重要性を長年強調してきました。サクセッション・プランニングにより、新しい経営リーダーへの移行を前もって準備し、社内の人材を育成することで、組織は持続可能性を高めることができます。調査によると、この重要なプロセスを軽視すると、予期せぬ離職や経営リーダー層の不在といった短期的な影響と、組織パフォーマンスの低下や人材パイプラインの欠如など長期的な影響の両方が生じる可能性があります。着実なサクセッション・プランニングの仕組みがもたらすメリットは、この中核的な組織ニーズに投資しないことによる短期的な利益をはるかに上回る可能性があります。

このギャップを埋めるために、企業ができることは、サクセッションプランを将来への投資、また組織のレジリエンス強化の方法論と考え、不測のリーダー不在に備える戦略アプローチを採用することです。これはベストプラクティスだからではなく、戦略的必須事項だからこそ取り組むべきことです。企業が最初にすべきことは、重要なポジションを特定し、その職務で成功するためのリーダーシップ・コンピテンシー、性格特性、行動様式などを見極めることです。また、自社の人材プールを理解し、必要な育成経験を提供することによって、既存のリーダーと、ポテンシャルを持った人材を育てなければなりません。さらには、企業は事業戦略の進化に沿った将来のリーダーシップ・ニーズを予測し、変革を推進・支援できるリーダーや候補者を特定することです。組織の長期的な成功を確保するためには、サクセッション・プランニングにバランスの取れた投資を行う必要があることは、調査結果からも明らかです。

 

サクセッションへの多面的な戦略アプローチ

企業はサクセッション・プランニングを重視するようになっているものの、その具体的なアプローチはまちまちです。コーン・フェリーの調査によると、ポジションベースのサクセッション・プランニング、つまり重要ポジションを担える人材を特定し、準備することに重点を置いたものが最も多いアプローチです。このアプローチによって、企業は重要なポジションを社内の人材で確実に埋めようとしています。

しかし、最近の調査によると、73%もの企業が、リーダー候補の発掘を直属上司の推薦だけに頼っていることが分かりました。このやり方は問題です。管理職は限られた従業員の仕事ぶりしか見ることができないため、候補者の選出にバイアスがかかる可能性が高いためです。長年の研究と専門的見地から明らかなのは、効果的な後継者選びには効果的な評価が必要であるということです。候補者を昇進させる前に、企業は複数の情報源から情報を収集し、堅実な評価手法を用いて、従業員のパフォーマンスと重要ポジションを担うことのできる可能性を、より包括的に検討する必要があります。

調査によれば、2番目に多い方法は、パフォーマンス(業績)とポテンシャルによるマトリックスです。候補者の経年の業績と、社内における昇進可能性を9ボックスで測るものです。この方法では、ポテンシャルも加味することによって、従業員のパフォーマンスが不十分な場合に、組織が従業員の可能性を引き出し切れていない、もしくは現在のポジションに適していない可能性を理解できます。ポテンシャルを重視することで、組織は適材を適所に就かせるだけでなく、より広くキャリアパスを開き、社内流動性を高めることができます。このマトリックスを用いれば、企業はポテンシャルが高い人材を特定し、将来的にリーダーになるための成長を促すことができます。その結果、強力な人材パイプラインを構築することができます。

興味深いことに、今回の調査結果では、コンピテンシーに基づいたサクセッション・プランニングが最も活用されていないことが明らかになりました。コンピテンシーを活用した個別アプローチは、リーダー候補者の特定のスキルや特性を伸ばすことに重点を置いたもので、現在のビジネス環境においてその重要性はますます高まっています。しかし、特定ポジションを埋めるためのレディネスを優先させるのではなく、組織的に必要なコンピテンシーを広範に定義し評価、育成することに重きを置いているため、多くの資源と投資が必要になります。コンピテンシーをベースとしたサクセッション・プランニングは、多くのリソース投下を伴うものの、従業員の能力を幅広く把握し、適切な能力開発機会を提供することで、リーダーの育成に役立ちます。本調査では、最も活用されているサクセッション・プランニングのアプローチが何かということに加えて、企業が複数のアプローチを活用していることが分かりました。組織によってニーズや強みが異なること、また、サクセッションの本来の性質により、複数のアプローチによる解決策が求められているということです。従業員の育成を重視する企業文化を持った企業は、人材パイプラインを軸にしたサクセッションの戦略を選択し、広範な従業員に必要なコンピテンシーを特定するアプローチを採る可能性が高くなります。さらに、サクセッション・プランニングへの多面的な戦略アプローチは、ハイポテンシャル・プログラムなど、既存の他の取り組みを強化することにもつながります。専門家は、カスタマイズされた戦略の使用を長年提唱してきたものの、効果的なサクセッション・プランニング策を特定し、実施できるかは、依然として課題です。

 

サクセッション・プランニングの中間管理職や初級管理職への拡大

従来、サクセッション・プランニングは、組織の最も上層のリーダーを準備することが主目的でした。しかし、若手CEOを対象とした最近の調査によると、後継者パイプラインに人材が不足していると、生産性が低下するだけでなく、組織が新たなチャンスをつかむことも阻害されることが分かりました。時代は変わりつつあります。組織はサクセッション・プランニングの取り組みの幅を広げ、より広範な管理職層を含めるようになっています。コーン・フェリーの調査結果によると、約50%の企業が、サクセッション・プランニングの対象を中間管理職にまで拡大しています。この重要な階層に潜在するリーダー候補者の充実度を認識しているということです。さらに、回答者の約33%がサクセッション・プランニング施策に初級管理職を含めており、キャリアの初期段階における人材育成への戦略的コミットメントを強調しています。上層部の指示を実行し、それを直属の部下にとって意味のあるガイダンスに変換するのは中間・初級レベルの管理職であるため、幅広いリーダーシップ・レベルに投資するというのはとても意味のあることです。日進月歩のビジネス環境において、これらの管理職層は、企業が戦略を真に実行できるかどうかの大きな分かれ目となるのです。

 

まとめ

サクセッション・プランニングはダイナミックに進化する領域で、注意と戦略的な先見性が求められます。重要性が認識されている割に実際の投資が少ないという不均衡は、組織が解決すべき重要課題です。リソースを戦略的優先事項に割くことで、企業はサクセッション・プランニングの取り組みを強化することができるでしょう。

サクセッション・プランニングには様々なアプローチがあり、企業は色々な実験と試行錯誤を行っています。このような柔軟性は、人材パイプラインの改善と多様化への継続的な取り組みを反映しています。人材をより深く理解することで、組織は適切な育成トレーニングに焦点を絞り、これまで未開拓だった人材のポテンシャルを発掘することができます。

サクセッション・プランニングを中間および初級管理職にまで拡大することは、リーダーシップ開発が一部の選抜者に限定されてしまうことを回避するとともに、インクルーシブな組織を促進する上で前向きな傾向です。企業が、あらゆるレベルの新しいリーダー候補者の可能性を認識し、優先順位をつけて全体的な戦略を策定することで、将来の課題と機会に対する備えがより整うことになります。リーダーシップ人材の強力なパイプラインを構築することで、大きな混乱と不確実性に直面しても、企業は適切に軌道修正し、成長し、変革することが可能になります。サクセッション・プランニングは現状維持ではなく、企業の将来を確実なものにすることです。

 

 

 

 

 

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