2023年の雇用市場に何が起こるのか、市場環境の変化が人員計画にどのような影響を及ぼすのか、最高の人材を惹きつけ、定着させる戦略を構築するために雇用主は何をすべきなのか、コーン・フェリーの世界中のタレント・アクイジション(人材採用)の専門家たちが見解を述べます。
2023年のタレント・アクイジションに影響を及ぼす7つのトレンド
01 社外ではなく社内異動
流動性の高い雇用市場のおかげで、プロフェッショナルは従来のようなキャリアアップにとらわれる必要がなくなりました。出世への階段を上る代わりに彼らが選んだのは、自身の成長のために現在所属する組織内の他部署へと異動して、異なる専門性を学ぼうとすることです。その結果、内部流動性が高まっています。多くの場合、企業はタレント・アナリティクス(人材分析)と要因計画を活用して、事業の将来性を確かなものとするためにどのような新しい職務が必要で、どの既存社員がそれに適しているかを判断しています。
今後、雇用主は既存社員の育成に重点を置き、定期的なトレーニングや資格取得プログラムを提供し、社内候補者のリスキリングやアップスキリングを図るようになると思われます。さらに、予測分析を用いて従業員の既存のスキルセットを検証し、難易度の高い職務に就く有望な社内候補者を絞り込むようになるでしょう。そしてキャリア開発コンテンツを提供し、目標や関心分野に基づいてパーソナライズされたキャリアパスを作成するAIプログラムを活用する企業が増えていくでしょう。社内流動性に投資し、それを管理する職務を設けることは、組織が優秀な人材のモチベーションを高め、より多様なパイプラインを開発するのに資するだけでなく、採用が困難になる中で空きポストを埋め、重要なニーズを満たすことにもつながる、と専門家は述べています。
大量離職時代に生まれた物語かもしれません。新型コロナウイルスによるパンデミックが一段落しても、プロフェッショナルは自分の仕事やパーパスを見つめ直し続け、過重労働や過小評価によりこれ以上の成長余地がないと判断したら、もはや自分の職務に留まることはないと専門家は見ています。2023年には、従業員の能力強化に継続的に取り組んできた企業においては、従業員のエンゲージメント、コミットメント、忠誠心が高まり、目標や関心分野に基づいてパーソナライズされたキャリアパスが実現されます。専門家によると、社内の流動性に投資し、それを管理する職務を設けることは、組織が優秀な人材のモチベーションを高め、より多様な人材パイプラインを開発するのに役立つだけでなく、採用が困難になる中で空きポストを埋め、重要なニーズを満たすことにもつながると、専門家は述べています。
02 タレント・アクイジションとタレント・マネジメント:“複雑な関係”から“長期的な関係”へ
優れた人材を採用しても、その人材が定着しなくては意味がありません。そのため、今後、タレント・アクイジション(TA)とタレント・マネジメント(TM)のチームは、採用プロセスからキャリア開発、後継者育成に至るまで、より密接に連携していくことになるでしょう。
長らく、両チームは人事部の傘下にある別組織として機能してきました。しかし、パンデミックによって仕事に対する世界の常識が覆され、企業が記録的な数の退職者を出したことから、ここ数年、両チームがより密接に連携する必要性が生じています。
TAとTMがパートナーシップを組むことで、採用プロセスから従業員のライフサイクルを通じて一貫性のあるジャーニーを創造することができます。ある時点から得たインサイトを他の時点に活用することで、その瞬間をキャリア推進力に変えることができるのです。そうすることで新入社員の個人およびプロフェッショナルとしての成長がサポートされるほか、雇用主が彼らの成功に投資していることを示すことで新入社員は大切にされていると感じるようになります。その結果、社員はより長くより熱心に仕事に打ち込むことができるようになる、と専門家は述べています。
さらに、専門家によると、より密接で一貫したプロセスにより雇用主はビジネスニーズに応じて既存人材をより効果的に活用し、再配置することができます。2023年には、TAとTMは協力して採用プロセスで収集したデータを従業員のライフサイクル全体を通して活用し、従業員がキャリアを通じて成長していることを確認する必要があります。雇用主はTA担当者とライン・マネジャーが人材データを共有、取得、活用できるクラウドベースの人材プラットフォームに投資することでTAとTMの協力を強化し、先進的なエンプロイー・エクスペリエンスを提供するだけでなく、社内流動化によりビジネス成長にも貢献することができます。そして、そのメリットは重層的になります。従業員を育成する企業は、労働力の多様性を維持することができ、よりアジャイル(機敏)で効率的な対応ができるため、変化する市場環境に適応できるのです。
03 エグゼクティブやプロフェッショナルの一時的雇用
新型コロナウイルスのパンデミックは、人々がいつ、どこで、どのように働くかを変えただけでなく、職務のあり方まで変えました。この3年間で、あらゆる年齢層や職階のプロフェッショナルがフルタイムの仕事を辞め、臨時雇用や契約社員として働くことを決意しました。ある調査によると、世界の臨時社員の数は、2018年の約4,300万人から2023年には約7,800万人にまで増加すると予想されています。
なぜ多くのプロフェッショナルがフルタイムの仕事よりも一時的な仕事を好むのか、その理由はさまざまです。コーン・フェリーのある調査では、21%の臨時社員が「柔軟性がある方が良い」、48%が「自分のスキルを使ってユニークな問題を解決したい」、26%が「従来の会社員生活から抜け出したい」と回答しています。どのような理由であれ、企業はこの事実に着目せざるを得ません。今後、雇用主はフルタイム雇用だけに頼るのではなく、拡大する労働力のニーズに対応するため、暫定的なエグゼクティブやプロフェッショナルにも目を向けるようになるでしょう。実際、コーン・フェリーの同じ調査では、52%の専門家が2023年には臨時雇用の需要が増加すると回答しています。また、他の調査では、大企業の80%が今後数年のうちに契約社員の利用を増やす予定であることが分かっています。
臨時社員を採用することには、いくつかのメリットがあります。臨時社員や契約社員は、高い技能を持ち、使命感を持ってプロジェクトに取り組み、新しい環境に素早く適応できる人材であることが多く、また休職中や正社員を探す間に一時的にその職務を担ってもらうこともできます。
2023年には、柔軟な働き方を求める人々が増加すると思われます。そのため、TA担当者は臨時雇用や契約社員としての職務を求める候補者との関係作りに一層力を入れ、クライアントと協力して、ポジションを埋めるための最も効果的なシナリオを決定することになるだろう、と専門家は指摘します。このようなダイナミックな状況において、専門家は企業がフルタイムと臨時社員の比率を7対3に維持することを推奨しています。
04 生産性は大丈夫、では企業文化は?
この3年間で、従業員が自宅で仕事をしても同等かそれ以上の生産性を上げることができることが証明されました。問題は、あらゆる人が自宅で仕事をする中で、どうやって企業文化を維持し、向上させられるかということです。
2023年には、企業はハイブリッド職場を標準化することで、両方のメリットを享受できるようになるでしょう。ハイブリッドワーク・モデルによって、従業員はリモートワークの自由を享受しながら、オフィスにいることの利点、つまりトレーニングや能力開発、急な話し合いなどをより効果的に得られるようになる、と専門家は言います。
もちろん、これは一様には言えません。ハイブリッドの環境は組織のニーズ、職種、業界、従業員によって異なり、データや従業員の感情、そして個々のケースを基に決定されるべきです。ある企業は「コラボレーション・デー」を設け、毎週同じ日にチームが直接顔を合わせるようにしています。コーン・フェリーの調査によると、88%のプロフェッショナルが、チームメートとオフィス・デーを設け、コラボレーション向上を図りたいと回答しています。また、月に数回だけオフィスに出社するよう社員に求める企業もあります。TA担当者は来年、優秀な人材を獲得するためにハイブリッド型の勤務形態を提供する企業が多くなり、リモート希望の候補者が必要な時にオフィスに来ることができるよう、一定の距離内に住むことを義務付ける企業も出てくることを予期すべきです。働き方のモデルが変化しても、こうした企業は高い生産性を維持し続けるだろうと専門家は指摘しています。一方で専門家は、従業員の希望を無視したり、対面でのやり取りをそれほど必要としない職務にもかかわらず、すべての人にオフィス勤務を強制する組織は、退職願を出す従業員が増えないまでも、生産性が低下する可能性が高いと警告しています。コーン・フェリーの調査では、79%のプロフェッショナルが、オフィス勤務に戻ったら、リモートワークをしているときよりも労働時間が短くなると回答しています。また64%の回答者が、オフィス勤務に戻ることでメンタルヘルスに悪影響を及ぼすと答えています。今後TA担当者は、定期的にパルスチェック(アンケート形式の簡易調査)を行い、候補者エクスペリエンスを可視化するだけでなく、改善の優先順位の変化をリアルタイムで把握する必要があります。
05 ワークライフ・非バランスからワークライフ・インテグレーションへ
ワークライフ・バランスという概念は、何百万人ものプロフェッショナルにとって長年の目標でした。しかし、ここ数年のリモートワークの普及により、時間に縛られながら日々の仕事をこなすことはさらに困難になっています。多くの社員が、従来の9時から5時までの勤務体制をやめて、より自由なスケジュールを組むという新しいアプローチを取り始めています。
2023年には、より多くの転職希望者がワークライフ・インテグレーションを推進する企業を求めるでしょう。例えば午前中に数時間働き、子どものお迎えのために午後休憩を取り、夕方にまた仕事に戻るといったように、個人的な用事が発生したときに最も都合のよい日中の時間を使うことができるというものです。また地域によっては、36時間を4日に分割して勤務するようなフレックスタイム制を導入している企業が、需要の高いスキルや知識、経験を持つ候補者の間で優位に立つ可能性があると専門家は指摘しています。
実際、候補者にとって柔軟性のある職場は最優先事項です。コーン・フェリーの最近の調査では、76%のプロフェッショナルが非正規雇用の労働時間に変更したいと答え、別の調査では88%がオフィスに戻ると家事や育児が大変になると回答しています。
このことは、現代の働き手のもう一つの傾向を表しています。それは、個人の活力源を守るために仕事との境界をより強固にするということです。そのため、TA担当者は従業員のウェルビーイングを重視するようになり、柔軟な働き方、メンタルヘルスのサポートや育児支援などの包括的な福利厚生を提供する企業がますます増えていくと思われます。
専門家によれば、今回のパンデミックによって、従業員は自分の好きな時間に働くことで、生産性と効率が大幅に向上することを雇用主に示したのです。今後、管理職は勤務時間で縛るのではなく、従業員の成果によって成功を評価するようになるでしょう。
06 出戻り:ブーメラン社員の増加
当時は誰もが良いアイデアだと思ったのか、ビジネスが好調で貯蓄も増えていた頃、多くのプロフェッショナルが早期退職に踏み切っていました。しかし、経済が不安定で退職金が減少している今、多くの退職者やプロフェッショナルが隣の芝生がそれほど青くはなかったことに気づき、以前の職場に戻ろうとしています。
もちろん、ブーメラン社員はいつの時代にも存在していました。ある調査によると、仕事を辞めたプロフェッショナルの15%が以前勤めていた会社に戻っているという結果が出ています。しかし、専門家は、特にこのような流動性あふれる市場を背景に、この傾向は来年以降も続くだろうと予想しています。最近のある調査によると、LinkedInに掲載された求人から採用されたアメリカ人のうち、ブーメラン社員が米国全体の4.2%を占めています。2019年にはその数値は3.3%でした。
自社に求められる知識や実績のあるスキルを持つ元社員を再び迎え入れるというのは、企業にとって実は思いがけない贈り物とも言えるでしょう。コーネル大学の研究によると、ある大規模な医療機関では、ブーメラン社員は外部からの新規採用よりも数が多く、特に人を中心とした業務や管理的な職務(人事スペシャリスト、ITプロジェクトマネージャー、弁護士など)に多いことが分かっています。
2023年には、組織はオンボーディングならぬ「オフ」ボーディングに力を入れ始めるようになるでしょう。これは退職者とプロフェッショナルな関係を維持し、その人が復帰を選択した際に快く迎え入れることを確認するというプロセスです。またTA担当者は、デジタルなワークフォース・パフォーマンス・テクノロジーに投資することで、元社員の動向を把握し、需要の高い職務にふさわしいスキルと経験を持つ人材を見出すことができるようになります。
しかし、すべての元社員が復帰を望んでいるわけでも、そうする必要があるわけでもありません。コーン・フェリーの調査によると、68%のプロフェッショナルが、引退を撤回して契約社員や臨時社員として復帰したことがある、または復帰する意向があると回答しています。今後、採用側は退職者の人材プールを活用し、退職後に一時的なプロジェクトに貢献することに興味を示している優秀な元社員を見つけることができるようになるのです。
07 要員計画をよりスマートに
2008年から2009年にかけての金融危機では、多くの企業が生き残りをかけて大幅な人員削減を行い、世界経済が回復し始めると十分な人数を雇用しようと奮闘しました。その間、残された従業員は人手不足を補い、ストレスで燃え尽き、挙句の果てには退職してしまう人も出ました。コーン・フェリーの調査によると、このパターンは新型コロナウイルスのパンデミックとロックダウンの開始直後から繰り返されています。従業員の燃え尽き症候群は離職理由の40%を占め、このような従業員の代替にかかる平均コストは元の給与の120%から200%にもなります。
2023年に市場が低迷した場合、企業は労働力の適正規模化に対して、より慎重なアプローチを取る必要があります。TA担当者はシナリオに基づいた需要計画を立て、最悪の経済状況、平均的な経済状況、最良の経済状況それぞれに備えなければなりません。今後起こりうるすべてのシナリオを想定し、新たな機会を捉え、リスクを効果的に管理するための柔軟で長期的な計画を立てるのです。TA担当者は景気後退期だけでなく、回復期にも焦点を当て、流動的な経済環境にも組織が迅速に対応し適応できるようにする必要があるのです。
しかし、ここ数年の経験から学んだことは、たとえ状況が安定しているように見えても、あらゆる事態に備える必要があるということです。つまり、TA担当者はより賢く予測する必要があるということです。結局のところ、昨年の要員計画がうまくいったからと言って、同じ計画が次の年も成功する保証はありません。今後はより慎重に需要計画を立て、サイロを取り除き、あらゆる部門のビジネスリーダーと協力して、来年度のニーズを真に理解する必要があります。変化するビジネスに焦点を当てた適切な役割、スキル、経験、地域の特定に役立つことから、AIと予測分析の活用がより加速するでしょう。また、多くの雇用主が空きポジションを埋めるために大急ぎで慌てて採用するのではなく、持続的な効果をもたらし、より計算された決定を下すようになるため、採用そのものが減速することも予想されます。
タレント・アクイジションの未来は、採用の段階からキャリアサイクル全体を通じて、個人の成長とエンプロイー・エクスペリエンスの向上に重点を置くことにあります。つまり、2023年にはTA担当者は一歩下がって、タレントジャーニー全体を見渡し、人事マネジャー、財務リーダー、その他のチームと部門を超えて協力をし、候補者と従業員の両方に活力を与え、ビジネスを成功に導く必要があるのです。結局のところ、意欲的な従業員は幸せな従業員であり、幸せな従業員は良い業績を上げます。もし、企業が今後10年間を見据えるのなら、今、人材の潜在能力を最大限に引き出す必要があるのです。
今がタレント・アクイジションのリーダーにとって、組織の将来性を高めるために大胆な行動を起こすことができるエキサイティングな時なのです。