人材の課題への向き合い方を根本から見直すべき理由
はじめに
タレント・アクイジション(人材採用/TA)が最も必要とされる時にきちんと機能していますか? 必要な人材を採用でき、定着させることができていますか? もし問題があるとすれば、それはTAチームではなく、組織全体の人材戦略のあり方に起因しているのかもしれません。今日の先進的な企業は、TAを人材戦略全体の最前線に位置づけています。よりスマートな方法でTAを活用し、慢性的な人材不足に対処し、業績向上につなげています。どのようにそれを実現しているのか、見ていきましょう。
パンデミック後のビジネスがいわゆる“ノーマル”に戻る上で、未曾有の人材供給ショックが障壁となっています。多くの企業や組織にとってこれは採用に関して初めて見る風景であり、従来のやり方はもはや通用しなくなっています。現在の人材市場は、不安定とまでは言わないまでも変動的で、今日抜きんでたものが明日の勝者となります。
では、最も優れた企業はどのように人材をマネジしているのでしょうか? そのアプローチは、採用段階での最初の接触から退職までシームレスなタレント・ジャーニーの創造に集約されます。このアプローチでは、TAとタレント・マネジメント(TM)を連携させ、戦略的に焦点を当てたTM機能を構築することで、従業員、TAプロフェッショナル、そして組織全体が一貫してより良い成果を上げることができます。私たちは、この統合された人材戦略を「Win-Win-Winゾーン」と呼んでいます。
Win-Win-Winゾーンに入る
人材にとってのWin:より生産的でエンゲージされた従業員と、より良いエンプロイー・エクスペリエンスの恩恵を受ける。
TAにとってのWin:TA専門家の戦略的関与と注目度が向上する。
組織全体にとってのWin:人材戦略と組織戦略を一致させることで、高業績人材の調達と定着が向上する。
データと人が交差する場所
この戦略の中心にあるのはデータですが、データだけでは十分ではありません。従業員のニーズや欲求と交差する実用的なインサイトを生み出す分析ツールの開発こそ成功の鍵です。
すべての組織は、応募プロセス、面接、アセスメント、業績評価から収集した従業員に関する有用なデータを有しています。このような情報は従業員側から提供されるもので、従業員の経験、スキル、意欲、知識のギャップを網羅しています。しかし、このようなきわめて重要な知識は失われてしまいがちです。
人材不足をチャンスへと変える
一方で、優れた組織は一貫したデータのフローを使って、候補者と従業員をつなぐタレント・ジャーニーを構築しています。
その結果、候補者の貴重な情報は蓄積され、ビジネス部門へと展開され、人材開発計画、評価、タレント・マネジメント戦略の指針となります。
慢性的な人材不足が懸念される今、こうした情報のフローを確立し、希少な人材リソースのためにより明晰なタレント・ジャーニーを構築することは、かつてないほど重要になっています。
業務処理的なものから戦略的なものへ、TAを変革する
かつての求人と目標に焦点を当てた業務処理的なものから、真の戦略的インパクトを提供する高いビジネス価値を持つ完全統合機能へ。優れた組織はTAチームを効果的にアップグレードさせています。
この変革の動きを事例として見る
この後のページでは、架空の人物である2人のジャーニーに注目します。採用候補者の段階から長いキャリアを経た段階まで、組織の包括的な人材戦略にTAを組み込むかどうかによって、まったく異なる道筋を描くことになります。タレント・アクイジションとタレント・マネジメントの連携がどれほど組織に影響を与えるのか、詳しく見ていきましょう。
二人のタレント・ジャーニーの物語
本物語の登場人物モハンとサンドラは、いずれも魅力的なプロジェクトマネジメントやプロダクトマネジメントのスキルを持ち、高い需要があります。両者とも学歴、職歴、経験ともに申し分ありません。しかし、モハンがコンプレイスント・インダストリーズ社に、サンドラがトレイルブレイザー社に応募してから、2人はまったく異なるエクスペリエンスを辿ることになります。
ステージ01
人材採用
モハンは、自分がその職務に適任であるか確証もないままコンプレイスント・インダストリーズ社に応募しました。職務内容もやや曖昧なままで、このプロフェッショナルな文化に自分が合致するかも分かりませんでした。
サンドラについては、トレイルブレイザー社から受け取った職務内容がとても分かりやすく、また、将来的なキャリアの方向性についても言及されていたため、自信を持って応募することができました。
ポイント:コンピテンシーやリーダーシップのフレームワークを用いるのに早すぎるということはありません。採用候補者のスキルや経験だけでなく資質や行動特性も検証している企業では、より長く定着する「フィットした」人材を採用できる可能性が高いためです。自社で働く理由(EVP/雇用主価値提案)の精査に時間と労力を投じることは、全社的に整合性を確保する上でもますます重要になっています。
ステージ02
採用面接のプロセス
モハンは、面接がやや構造的でないと感じながらもベストを尽くしました。面接中に質問したことで、職務内容についての詳細は分かりましたが、キャリアパスの可能性などについては、またもや曖昧な回答しか得られませんでした。あるスキルのギャップを埋めたいと考えていた彼は、面接でその旨を伝えると、コンプレイスント・インダストリーズ社は問題はないと断言しました。
サンドラも、面接ではいくつか質問をしましたが、明確で詳細なジョブ・プロファイルのおかげで事前に十分な準備をすることができました。プロセスの一つであるアセスメントも、同社の採用プロセスが非常に洗練されていて、同社がどんな人材を求めているのか明確だと実感させられるものでした。その後の面接も、双方向でお互いに気持ちよく行うことができました。詳細な質問にも回答してもらったことで、同社に対してよりポジティブな印象を持つようになりました。
ポイント:トレイルブレイザー社のコンピテンシー・フレームワークと職務内容は、常に更新されているため非常に秀逸です。TMチームの持つ業績評価やアセスメントなど既存従業員のデータと照合することで、真に高いパフォーマンスを発揮する個々人を特定することができます。このデータを使ってTAはフレームワークと職務内容を改良しています。その際、組織内で活かすことができると証明されたスキルと行動を持つ個人がターゲットモデルとなります。
また、トレイルブレイザー社は戦略的方向性の変化を即座にTAチームに伝え、TAチームはそれに応じて採用プロファイルを調整することができるため、全体的に機敏に動くことができます。コンプレイスント・インダストリーズ社の対応は特に問題はありませんが、競争の激しい人材市場において、業界リーダーに遅れをとることは大きな損失につながります。
タレント・プロファイルを開発する
優秀な人材に顕著な特徴を抽出し、アセスメントしやすいプロファイルにまとめることができたらどうでしょうか。理想となるタレント・プロファイルを作成することで、一貫性のある高業績人材像を構築し、人材を評価することができます。
キーポイント
一貫性
採用から退職まで、従業員のライフサイクル全体で同じプロファイルを使用します。
データの最大化
プロファイルは意見、個人的な好み、直感に基づいて作成するのではなく、社内外の情報源から多くのデータポイントを使用します。
パラメータの定義
ハードスキルやソフトスキルだけでプロフィールを定義するのではなく、人間性、能力、責任、期待される成果などのパラメータを使用します。
ステージ03
アセスメントと業績評価
サンドラとモハンの二人は面接に合格し、それぞれ仕事を始めました。しかし、ここから彼らの軌道が変わり始めます。
モハンは仕事に対して十分な資質を有していますが、面接で説明されたいくつかのスキル不足を補うためのトレーニングはまだ行われていません。そのため業績評価の際にこの問題を取り上げなければなりませんでした。評価面談もやや形式的なもので、評価担当者が彼のことをほとんど理解していないように感じます。
トレイルブレイザー社での業績評価は、単に現在の業績に焦点を当てるだけではありません。評価担当者は社員の目標や意欲にも関心を持ちます。組織の将来的な戦略的要件と、それを満たす可能性の高い社員というのを理解した上で評価面談に臨みます。サンドラにとってまだ2回目の業績評価ですが、すでに自身のスキル・ギャップを埋めているため、新しいスキルを身につけて組織のビジネス戦略に合った横滑りの人事異動をしてもすぐに活躍できる準備が整っています。
ポイント:今、モハンのキャリアは足踏み状態ですが、サンドラのキャリアは着実に前進しています。これは、トレイルブレイザー社のTAチームとTMチームのシームレスな情報共有によるものです。会社としてサンドラのスキルアップに投資し、コミットしています。評価担当者は彼女のキャリアゴールに完全に関与しており、彼女は希望をかなえてもらっていると感じています。モハンは、善意はあるものの対処のしづらさを感じさせる組織を相手にフラストレーションを感じています。
ステージ04
昇進とその先
サンドラのキャリアは飛躍しつつあります。いくつかの昇進を受け入れ、ビジネス全体で高いパフォーマンスを発揮していると評価されています。彼女の能力開発計画は、キャリア目標の達成を支援し、トレイルブレイザー社の戦略的優先事項に合致していることを確認するためのものです。また、エンゲージしている従業員の一員として、トレイルブレイザー社でのネットワークで活躍の機会を広めています。ポジティブな経験によって、彼女は会社の顔とも言うべき存在となりました。
モハンにも昇進の機会が訪れましたが、コンプレイスント・インダストリーズ社においてではありません。彼の成果とプロフェッショナルな成長志向に感銘を受けた別の会社から声がかかったのです。コンプレイスント・インダストリーズ社は別の従業員を探すために採用プロセスを再開しなければならなくなりました。
ポイント:元々モハンという一個人の問題だったものが、TAの範疇から遠く離れコンプレイスント・インダストリーズ社全体の問題になってしまいました。このような小さな失敗とタレント・ジャーニー初期からの一貫性のなさが、モハンを転職へと駆り立てることとなりました。一つひとつは小さな問題で、やる気のある従業員はそれを乗り越えることができるかもしれません。しかし、問題の規模が大きくなればなるほど、人材の流出が進み、最終的には組織の足かせになりうるのです。
サンドラの物語は可能性を見出しそれを最大限に活用したケーススタディであり、モハンのそれは機会損失の物語となったのです。
実例紹介
ブロードバンド・プロバイダーにおける社内タレントプールの最大化
最近コーン・フェリーは、全米にブロードバンド・ネットワークを提供するために設立された企業の仕事を請け負いました。物理的なネットワーク構築が完了した後、この企業は工事からデジタル技術を駆使する企業へと、大きな変化と再編を遂げようとしていました。完全に統合されたタレント・マネジメントシステムを導入するための支援を依頼されたのです。
社内の既存人材を特定し、インテリジェントな社内採用を実現することに焦点を当てました。
そしてソフトウェア・プラットフォームIntelligence Cloudの導入を支援し、社内人材の特定と配置に自動化と分析機能の強化を実現しました。また、企業全体の人事リーダーと協力して、社内人材を特定し、彼らの次のキャリア課題を確立しました。この情報はTAチームにフィードバックされ、要件と照らし合わせて優秀な候補者をハイアリングマネージャーに紹介することができました。
その結果、12ヶ月前までは社内の仕事を探し応募することの責任は候補者にあったのが、すべてのプロセスが自動的になり日々の業務に組み込まれるようになりました。
デジタル・トランスフォーメーション推進の触媒となるチームの組成
コーン・フェリーはグローバルな製薬会社と協力し、デジタル・インキュベータを設立しました。デジタル・インキュベータは変革のイニシアチブを主導し、データと分析を用いて創造的に患者と関わることができる、組織横断的な改革者たちからなるアジャイルなチームです。
これらは単に新しい職務というだけではありません。全く新しいタイプの職務であることから、適任者のモデルがありませんでした。私たちは、「最適な人材」を特定し、育成のための施策を立案・着手し、チームが効果的に動けるようにしました。
インキュベータ内の戦略的目標を解読し、成功に導く潜在能力と行動を特定しました。そして、社内のハイポテンシャルな人材と社外の採用における、タレント・アクイジション戦略を策定しました。さらに、この機会に対する明確なバリュー・プロポジション(価値提案)を策定し、採用プロセスも管理しました。そして期待される行動と役割の要件に基づいて、チームのためのオンボーディング・セッションと長期的なラーニング・ジャーニーを設計しました。その結果、12ヶ月の間に90人以上のトランスフォーメーション人材が社内外から採用されました。
データ活用でタレントIQを高める
従業員に関するデータを収集すると聞くと、本能的には人間性を無視し、顔の見えないデータセットに還元しているように感じられるかもしれません。しかし、人間性を中心に据えたやり方であれば、その結果は正反対になるはずです。従業員から提供された重要な情報を組織が「忘れる」と従業員は過小評価され、「ただの歯車」のように感じる可能性が高くなりますが、このような情報を「記憶」できるようにすることで組織のタレントIQを効果的に高め、やりがいと生産性の高いエンプロイー・ジャーニーを実現することができるのです。
共通のデータレイヤーの確保
採用応募者追跡システムとタレント・マネジメントシステムを別々に運用している場合でも、共通のデータレイヤーを共有し、システム同士が通信できるようにすることが重要です。この共有情報アーキテクチャが確立されれば、組織を「Win-Win-Winゾーン」に移行させるプロセスを構築できるようになります。
高度なアナリティクス
データを手に入れたら、それをどのように活用すればよいのでしょうか。高度なアナリティクスにより、業績評価データとアセスメント・データなど他のタイプの人事データを関連付けてタレント・プロファイルを作成することができます。機械学習などの最新テクノロジーを活用すれば、新しいデータの流入や組織の優先事項の変化に応じて、プロファイルの変更をリアルタイムで反映させることができます。
今日の人材不足はTAだけの問題なのでしょうか?
あるグローバル企業では、採用成功率の大幅な減少と採用に要する時間の増加に悩まされていました。その企業は、外部のRPOパートナーを利用し、TAを社内に戻すことにしました。しかし、問題はTA部門のマネジメントにあるわけではないことが明らかになり、この企業はRPOパートナーを中心に、EVPの強化、面接プロセスの簡素化、意思決定の迅速化、TAチームをアウトソーシングサービスではなく価値あるパートナーとして事業に統合する、などの戦略的提案を取り入れました。
タレント・アクイジションの成熟度を知る
明晰で完全に統合された人材機能への移行はジャーニーです。多くの組織がその旅を始めていますが、最後まで到達している組織はほとんどありません。このチャートを使って、組織の現在地を見てみましょう。
ステージ01
バラバラで初歩的
TAが断片的であったり、定義が曖昧であったり、ビジネス目標とリンクされていない状態。
- 手作業で測定することもある、限られた技術や測定基準
- 基本的な雇用主ブランディングは整備されている
- ソーシング活動は役職ごとにその都度行われる
モハンとコンプレイスント・インダストリーズ社
コンプレイスント・インダストリーズ社はステージ1に位置づけられています。これがモハンを失望させるエンプロイー・エクスペリエンスとなった大きな要因です。
ステージ02
推進中で、戦略をサポート中
TAはビジネスニーズに基づいて緩く定義されている。
- 採用プロセスは標準化されているが、一貫性に欠ける
- 先を見据えたタレントプールが形成されている
- ATSを使用し、付随するテクノロジーも導入検討中
ステージ03
中級で、戦略を実施中
TAは定期的にビジネスと相互連携している。
- 採用プログラムとマーケティング・キャンペーンで候補者エクスペリエンスを強化している
- アセスメント戦略が定義され、職務の種類やレベルに合わせて調整されている
- 評価基準により効果的な意思決定がなされている
サンドラとトレイルブレイザー社
トレイルブレイザー社はステージ3からステージ4へと移行しています。テクノロジーやシステムがすべて整っているわけではありませんが、この企業は急速に「選ばれる雇用主」になりつつあり、このジャーニーを進むことに明確な価値を見出しています。
ステージ04
最先端で、戦略を推進中
TAは組織全体の目標を直接サポートするようにカスタマイズされている。
- 統合TAモデルにより、ビジネスとのシームレスな運用が可能
- TAチームは競争力を発揮している
-候補者エクスペリエンスを中心とした最高峰のTAテクノロジースタックを保持
次のステップ – ジャーニーの準備をする
タレント・ジャーニーを成功させるには、終始一貫したタレント・エクスペリエンスの実現が不可欠です。
最初から始めましょう。候補者をどのように惹きつけ、応募や推薦があった際にどのように評価していますか? TAとTMチーム間で情報が自在に共有されていますか? 適切なデータを収集し、分析し、分類するための適切なテクノロジーを備えていますか?
適切なタレント・ジャーニーの構築には時間がかかり、毎年進捗を確認する必要があります。タレント・ジャーニーが最適化されれば、組織全体に大きな利益がもたらされます。
結論
TAのパフォーマンスを変革する特効薬というのは存在しません。しかし、明確な戦略というものは存在します。一貫した評価と測定、タレント・アクイジションとタレント・マネジメントの統合と調整、データの収集、分析、分類のスマートなアプローチを組み合わせたものです。
この戦略により、TAチームはより適合性の高い候補者を低コストかつ短期間で提供することができるようになります。TAはビジネスニーズに迅速に対応し、価値あるタレントプールを構築して、ビジネス全体を変革する人材を提供することができます。やがてTAは付加価値の高いビジネスパートナーとして完全一体のものとなるでしょう。
この戦略において進んでいる企業は、深いデータ分析を行い、AIや機械学習などの新しいテクノロジーを導入しています。また、データレイヤーを共有し、継続的にプロセスを改善しています。しかし、これは単純な技術的解決策ではありません。人間全体を見る、有意義でやりがいのある候補者ジャーニーを提供する鍵となるものです。
これまでと同様、組織の成功の中心にいるのは従業員であるべきです。そして、課題はシンプルです。組織が必要とする資質を備えた人材を送り出すためのシステムを整備し、その上で、彼らの専門的な能力開発を満たすことに注力することです。人材を前面に押し出すということなのです。
タレント・ジャーニーを向上させる方法について、ぜひお問い合わせください。