【ホワイトペーパー】バウンドを超えて:次の不確実性に備えるための採用戦略

はじめに

世界の採用市場は、過去18ヶ月間でかつてないほどの反転を見せています。人材不足に対応することが雇用主にとってのニューノーマルとなりました。経済の先行き不透明感から、多くの人材採用(Talent Acquisition/TA)担当者は、現在の人材不足の状況を見直す必要に迫られています。そして、以前成功したことが次の変動期にも同じ効果を発揮するか、疑問視しています。

景気後退が迫ってくると、企業は本能的に採用停止や人員削減に走りがちです。しかし、今は短期的に対応を考えるべき時ではありません。人材不足は、お気に入りの連続テレビドラマシリーズのようなもので、1週間で完結するような急展開のストーリーではないのです。

人材という観点から見ると、パンデミックから最も強く抜け出した企業は、熟慮されたデータ主導のアプローチをとり、候補者体験と従業員価値提案(Employee Value Proposition/EVP)をより重視した企業であることがわかります。

では、どうすればTAは最新の脅威とチャンスに適切に対応し続けることができるのでしょうか。多くの可能性がある中で、TAはどのように次に起こりうることに備えればよいのでしょうか。今こそ、ベストプラクティスとイノベーションに新たな焦点を当てるとともに、人材需要計画が求められているのです。

 

雇用市場の波乱に備えよ

2022年上半期を通じて、世界の雇用市場は活況を呈しています。7月には、米国は予想の2倍以上となる50万人以上の雇用を増やしました。しかし、警告のサインも出ています。2022年7月9日付のFinancial Times紙は、「FRBが再び大幅な利上げを準備しているため、労働市場の動揺が収まるはずだ」と報じています。米国の求人数は確かに減少しており、8月上旬の失業保険申請件数は26万件と、パンデミック前の平均を4万件も上回りました。

英国では、KPMGのレポートによると、2022年6月の欠員数は1年以上前の低水準にまで増加しました。欧州の指標として興味深いのは、ベンチャーキャピタル企業NGP Capitalのデータによると、2022年上半期にスタートアップ企業の求人掲載数が40%減少していることです。

企業は、インフレの暴走、金利の上昇、生活費の高騰、ウクライナ戦争の継続的な影響などを強く意識しています。短期的な見通しは気になりますが、エコノミストやビジネスリーダーの間での長期的な見方は、概して楽観的です。企業によっては、財務部門や業務部門のリーダーが採用の一時停止や従業員の合理化を図る可能性も出てくるかもしれません。

しかし、パンデミック時のような大規模な人員削減や一時帰休の可能性はほとんどないでしょう。急激な人員削減を行う組織は長期的な風評被害を招く恐れがあります。短期的な視野に立ち、人材中心のアプローチから遠ざかっている企業にも同じことが言えます。市場が再び活気を取り戻したとき、採用は以前より難しくなるでしょう。

何よりも、景気がどうなろうと、優秀なプロフェッショナル人材の不足は続き、厳しい争奪戦が繰り広げられるのは変わりません。人材獲得において、昨日と同じことをしていては、せいぜい昨日と同じ結果しか得られないでしょう。TAチームを待つのは実に興味深い時代の到来であり、この難局を乗り切るには、計画と実行を正しく組み合わせることが必要となってくるのです。

 

次を予測し、備える:

人材獲得のための6つのステップ

 

人材需要計画を作成する

将来への見通しが不透明な中では、計画を立てることにより、未知の要素を取り除くことができます。TAは、リーダー層と協力して、人材需要計画を今後12ヶ月のビジネス予測と連携させることで、ビジネス戦略への価値ある貢献を果たすことができます。

景気後退が起こったときに人材需要がどのように変化するかを評価するには、想定外の事態も含めて、あらゆる「もしも」を想定したシナリオを作成することが大切です。そうすることで、将来の展望がより豊かになり、TAが想定外の事態を予測して計画を立てることができるようになります。

これらの潜在的なシナリオを記録上で確認することで、戦略的な議論にフォーカスすることができます。正確な計画を立てるには、予測分析を活用したデータ駆動型のアプローチが必要です。目標は、最も可能性の高い結果に基づく計画ですが、柔軟性も備えていなければなりません。モデリングは、市場の状況や予想される結果が変化したときに、すぐにギアを変えられるようなアジャイル(機敏)なものでなければなりません(状況は何度も迅速に変化することは間違いありません)。

人材需要計画のプロセスの一環として、ビジネスにおいて最も重要な職務を特定し、優先させる必要があります。まずその職務に就く人材を確保し、次に最も影響力があり、付加価値の高い欠員の採用を復活させるべきです。また、フルタイムの雇用に代えて、臨時のプロフェッショナルや臨時職員を採用することも、計画的に行うことができます。

TAは、人材獲得のニーズと、それがさまざまな条件下でどのように変化するかを明確に把握した上で、潜在的な予算制約と人材ニーズのバランスを取れるよう、組織全体を支援することができます。

 

ケーススタディ

人材需要計画の実践例

ある大手多国籍企業は、パンデミック時の多くの企業と同様に、人材ニーズの急激な変動に直面していました。人材需要は状況に応じて激しく変化しますが、人材獲得には一貫性が不可欠です。TAには、時間、効率、品質に妥協することなく、活動を迅速に拡大・縮小できる能力が必要でした。

しかし、コンプライアンス要件や厳しい雇用情勢など、課題は山積していました。TAが効果的に規模を拡大するためには、今後発生するボリュームをできるだけ事前に通知する必要がありました。その答えが、人材需要計画なのです。

時系列予測モデルを開発し、予測分析を活用して過去の採用活動を理解し、現在の採用状況に基づいて採用ボリュームを予測する一方、大型プロジェクトの稼働や顧客需要の変化など、目に見える影響を含めることができるようにしました。

正確な予測により、TAではボリュームが大きく変動してもサービス水準を維持し、時間、品質、コストのすべてを満たすことができました。また、将来の採用ボリュームが明確になったことで、コスト管理も改善されました。さらに付加的なメリットとして、ノートパソコンや携帯電話の用意といった入社やオンボーディングに関する雑務まで、計画的に行えるようになったのです。

 

繋がりを維持する

多くの企業にとって、景気後退を乗り切るための正しい戦略を確立する上で、社内の複数のステークホルダーの意見を聞くことは不可欠です。財務、人事、オペレーションの各シニア・リーダーは、それぞれの優先順位に基づき、パンデミック後の経済問題を理解するために知恵を絞っています。

財務部門は、当然ながらキャッシュフローと収益を守りたいでしょう。オペレーション部門のリーダーは、納期と生産高への影響を最小限に抑えることを目指します。人事部は、コストへの影響に敏感でレイオフによる風評被害など労働力の要因に焦点を当てるでしょう。

初期の議論では、この3つの目標が互いに緊張関係にあることが多く、1つのレバーを引くと他の目標に悪影響が出ることがあります。そのため、組織がこのバランスを取る作業に取り組んでいる間、人材採用は明確な方向性を持たず、頻繁に変更される指示を受けながら、中途半端な状態に置かれがちです。

そのためTAチームは、常にこの話題に関心を持ち、最新の動向を把握することが重要です。そして、それに応じて、TAデマンドプランや戦略を調整できるだけでなく、重要な専門知識、データ、洞察をもとに意思決定を行うことができます。

TAの影響力は、人材確保が困難な職務を担う既存人材の保持、社内の人材プールの最大化、重要な職務へのフォーカス、最新の市場情報の把握などの重要性を強調することによって、付加価値を生むことができます。

ですから、勇気をもって知識を共有し、大胆に意見を述べる機会を求め、積極的に関わり、ビジネス上の同僚と建設的な関係を構築していくことが大切です。あなたの意見によって、組織は思慮深く対応し、戦略的思考の中心に人材を据えることができるようになるのです。

ベストプラクティスの原則を順守し、イノベーションを探求する

不確実な時こそ、TAの基本原則である「計画→実行」に従うことが重要となります。人材採用は、いくつかの可動部品からなる機械であるため、そのうちの1つに過度に依存したり、全体としてその機能を停止させたりしないようにする必要があります。戦術的に反応(TAの人数を減らすなど)するのではなく、戦略的に対応することが必要なのです。

TAの運用モデルを振り返り、よりアジャイルにし、人材市場における差別化を図る方法を見出すことには価値があります。人材採用デジタルソリューションを取り入れることで、企業は採用プロセスにAIの力を取り入れることができます。テクノロジーは候補者ジャーニーを加速させ、候補者体験(後述)を向上させるとともに、採用ボリュームの変動を容易に吸収することができます。

また、自動化されたプロセスは偏りをなくし、より幅広い外部候補者に職務を公開するため、ダイバーシティの成果を向上させることが証明されています。組織内では、AI採用ツールによって、募集中の職務に最適な既存の従業員を簡単に特定することができます(たとえ積極的に転職を希望していない場合でも)。 テクノロジーは、社内の流動性を高めるのに役立つのです(後述)。

 

候補者ジャーニーと候補者体験を継続的に向上させる

人材不足は今後もしばらく解消されることはありません。そのため、タレントジャーニーを構築することが不可欠となります。候補者と最初の接点を持つ前から始まり、最終的に従業員体験につながるようなものです。採用活動を一時的に中断するような場合でも、候補者のコミュニティに参加することで、有力な候補者との温かい関係を維持する必要があります。継続的なエンゲージメントは優秀な人材をめぐる競争に勝つための方法に繋がります。

重要なのは、ベストジャーニーがどのようなものか知っていると思い込んではいけないということです。現在の従業員や候補者と一緒に構築するのです。最も人材を重視する組織は、すでにこのアプローチをとっています。それと同じ、あるいはそれ以上のことをしなければ、取り残されてしまうでしょう。

人、技術、プロセスの適切な組み合わせにより、エクスペリエンス(体験)を向上させるようにしましょう。テクノロジーを活用すればするほど、スケーラブルになることを忘れないでください。しかし、人間味を忘れず、効率化のために魅力的なハイタッチ・エクスペリエンスを犠牲にしてはいけません。最終的に、このプロセスはあなたのためではなく、候補者のために機能しなければならないのです。

パンデミックから学ぶべき教訓は、誠実なコミュニケーションの重要性です。ロックダウンに対応するために行ったビジネスの変革や、従業員の保護、メンタルヘルスのサポートに力を入れた企業は、採用活動が向上しました。

不確実なことは不安なものです。候補者や現在の従業員は、組織が景気後退や不況をどのように乗り越えようとしているのかを知りたがります。ですから、正確で、信頼できる、ポジティブなストーリーをEVPに盛り込むことが、採用と定着の鍵となるのです。

 

ケーススタディ

候補者エクスペリエンスを大切にする

ニュージーランドで17,000人を雇用するフォンテラは、世界最大の乳製品輸出企業です。ニュージーランドのほとんどの人が、顧客や従業員として、あるいは友人や家族を通じて、同社と関わりを持っているため、同社にとって質の高い候補者体験を提供することは非常に重要となっています。不満足なエクスペリエンスは、フォンテラ社の雇用主ブランドだけでなく、消費者ブランドにもマイナスの影響を与えることになるでしょう。

しかし、高品質なエクスペリエンスは、人によって異なります。そこで、フォンテラでは、一律ではなく、細分化したアプローチをとっています。TAチームはさまざまな職種の具体的なニーズと期待を評価し、プロセスをどのように適応させれば可能な限り魅力的なものにできるかを検討します。エントリーレベルの大規模採用には、現在、コーン・フェリーの完全統合テクノロジーソリューションであるNimbleを使用しており、候補者が自分のペースでスクリーニングと選考のステップを踏むことができるようになっています。プロフェッショナル採用の候補者は、電話による面接とコーン・フェリーのアセスメント・プラットフォームによるアセスメントで、より正式なプロセスを踏んでいます。

オートメーションにより採用プロセスは大幅にスピードアップし、候補者の満足度を向上させています。採用担当者は管理業務から解放され、候補者を理解するためにより多くの時間を費やし、面接の段階で質の高いエクスペリエンスを提供することができるようになりました。採用担当者は候補者のショートリストに満足し、アセスメントセンターは以前の半分の時間で満席になっています。

 

社内の人材を最大限活用する

経済が減速するたびに、企業は社内の人材流動性を高め、既存の従業員をリスキリング・アップスキリングすることで人員削減を防ぎ、空きポジションを埋めることに注力するものです。すでにいる人材が、必要な人材になるかもしれないのです。

TAは社内異動の増加に対応するため、理想的にはデジタル採用ツールを使って隠れたスキルや潜在能力を特定し、それを強みに転換することが期待されます。TAには、社内での人材採用を推進する、社内の人材プールを最大限に活用する、効果的な再配置を実行する、といった選択肢があります。

リスキリングという目標を達成するために、トレーニングや能力開発、コーチング、メンター制度の充実を図り、オン・ザ・ジョブ・トレーニングを増やしている企業もあります。また、キャリアアップのために新しいテクノロジーに投資している企業もあります。

つまり、人材を競合他社に簡単に流出させるのではなく保持することで、誰もが利益を得ることができるのです。

 

適切な外部専門家をパートナーに選ぶ

雇用市場の変動に備えるには、時間が最も重要です。現在の社内体制にもよりますが、データモデリングや人材需要計画の策定には、外部専門家、外部コンサルタント、RPO(Recruitment Process Outsourcing/採用代行)プロバイダーのいずれかとの連携が必要かもしれません。予測分析に関する確かな専門知識と、採用活動の成功に貢献した最近の実績によって選ぶようにしましょう。

サービス提供側の視点に立つと、予測不可能な採用ニーズに対応する人材採用ソリューションを構築するにはさまざまな方法があります。企業によっては、社内のTA機能に外部のさまざまなパートナーを統合することが合理的な場合もあります。また、重要な職種や勤務地など、特定の採用課題をアウトソーシングし、一部の採用は社内で行うという選択肢もあります。あるいは、完全なアウトソーシングTAサービスは、組織全体で需要の変動に対応するために最適な装備となるかもしれません。

最終的には、アジリティ(機敏性)やスケーラビリティ(サービスの拡張性)のほか、縦割りではなくシームレスなアプローチを提供できるパートナーが必要となってきます。人材コンサルティング、採用テクノロジー、RPO、マネージドサービスプロバイダー、臨時雇用、エグゼクティブ採用、EVPといった現在利用しているサプライヤーに相談することから始めるのがいいかもしれません。人材需要計画に対するサプライヤーの理解度を深め、採用活動にどのような付加価値を与えることができるかを検討してみましょう。

 

何が起きようと、先回りして準備する

経済がどのような方向に向かおうとも、雇用市場がどのように変化しようとも、綿密な計画とベストプラクティスの実行によって、人材ニーズの変化を乗り越えることができます。

次のバウンドを超えて、その先にある採用戦略の詳細について、お問い合わせください。

 

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